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もう一つの2000年問題





園田 寿




1999年の正月を迎えて、気になることが二つある。

一つは、来年の元旦にもインターネットは健在であるかどうか。これは、初期のコンピュータが日付を西暦の下二桁で入力するようになっていたため、西暦2000年が「00年」とされ、「1900年」と読んでしまい、世界中のコンピュータが誤動作を起こすのではないかという問題である。どんな事態になるのかは誰も予想がつかない。来年の元旦午前0時には、地球上を飛んでいる飛行機は1機もないといわれている。今「2000年問題」といえば、これを指す。

もう一つは、今年は20世紀最後の年なのか、それともあと1年間、20世紀は続いているのか。私は、コンピュータの誤動作よりもこの問題の方に興味を覚える。

代区分はもちろん時間の流れに対する人間の恣意的な区分であるからどうでもいいようなものの、70年代や80年代、19世紀や20世紀といった10進法の区分に慣れ親しんできたわれわれは、知らず知らずのうちにこのような恣意的な区分で歴史を捉えている。また、来る21世紀は特にキリスト教圏では終末思想(黙示録)との関連で1000年に一度の「ミレニアム(千年紀)」の改定の年となるだけに、いったいいつ21世紀が始まるのかはきわめて重大な問題なのである。

「公式」の見解では、2001年1月1日から21世紀が始まるようである。JR大阪駅前の「21世紀カウントダウンモニュメント」も2001年の元旦に合わせてある。一般社会でも、アーサー・C・クラークの「2001年宇宙の旅」以来、この説が有力であるような気がする。でも、この座り心地の悪さはどうだろう。美的な感覚からいえば、ゼロが重なる2000年の元旦こそ21世紀の幕開けとして祝うに相応しいのではないか。なぜ、2001年という中途半端な時点を新たな世紀の出発点としなければならないのか。たとえば、1900年に起こった事も1901年に起こった事も、ともに1900「年代」の出来事である。でもそれは19世紀の出来事と20世紀の出来事とに区分されてしまう。100年単位で区切る「世紀」が「年代記」と1年ずれている。小学生のころから、私はこのずれがとても気になっている。

近、この複雑な問題の原因の一つにふと思い当たることがあった。それは「時」の始まりは「0(ゼロ)」なのか「1」なのかということである。そもそもわれわれが親しんでいる「西暦」は、6世紀の修道士ディオニシウス・エクシグウスの手になるものである。教皇ヨハネ1世のために年代記を作成せよとの命を受けた彼は、ローマ建国年を「紀元」とした。しかし、聖職者であった彼は、キリストの生誕で時間の流れをさらに二分した。つまり、彼はローマ建国紀元754年1月1日から時間を再スタートさせたのであるが、この年をキリスト紀元0年とはせずに、「(キリスト紀元)1年1月1日」としたのであった(ところがその後、少なくとも紀元前4年までにはキリストが生まれていなければ、聖書の記述の大部分は改訂されなければならないという事が判明する)。世紀にまつわる混乱の根源の一つは、ディオニシウスが時間の始まりを「0」ではなく「1」から始めたということにあるようだ。

「世紀」はあくまでも「100年単位」でなければならないというならば、西暦100年は「1世紀」に属する年であり、以後、末尾が「00年」とゼロが続く年は、その世紀の100番目の年として位置付けられなければならない。つまり、来年の1月1日は20世紀最後の年にならなければならない。これがあの座り心地の悪さの原因の一つなのである。

の貧弱な数学的感覚からは、時の始まりは「0」であり、「1」ではない。「0」がヨーロッパで普及したのは8世紀ころとされているから、ディオニシウスが下した決定を誤りだったとすることはできない。でも彼の下した決定は、現在の日本の法体系の下では違法とされる可能性があるのである(「年齢のとなえ方に関する法律」参照)

私自身は今年1年を20世紀最後の年として生き、来年の2000年元旦を新たな21世紀の始まりとして個人的に祝いたいと思う。キリスト生誕直後の最初の1世紀は、実は99年しかなかったのである。


年齢のとなえ方に関する法律
(昭和24年5月24日・法律第96号)施行、昭25・1・1

 1 この法律施行の日以後、国民は、年齢を数え年によつて言い表わす従来のならわしを改めて、年齢計算に関する法律(明治三十五年法律第五十号)の規定により算定した年数(一年に達しないときは、月数)によつてこれを言い表わすのを常とするように心がけなければならない。
 2 この法律施行の日以後、国又は地方公共団体の機関が年齢を言い表わす場合においては、当該機関は、前項に規定する年数又は月数によつてこれを言い表わさなければならない。但し、特にやむを得ない事由により数え年によつて年齢を言い表わす場合においては、特にその旨を明示しなければならない。

 附 則
 1 この法律は、昭和二十五年一月一日から施行する。
 2 政府は、国民一般がこの法律の趣旨を理解し、且つ、これを励行するよう特に積極的な指導を行わなければならない。
 3 前項の事務は、附則第一項に規定する期日よりも前から行うことができる。


(参考文献)
 スティーヴン・ジェイ・グールド「暦と数の話」



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