[翻訳](関西大学法学論集第514128頁掲載)

 

大韓民国の住民登録制度

 

韓国漢陽大学校法科大学

助教授  金鍾鐵(キムジョンチョル)

 

園田 寿(訳)

 

김종철

대한민국의 주민등록제도

 

 

 

 

 1.序

 

 大韓民国(以下、韓国)の国民は、すべて2種類の登録制度の対象となっている。住民登録制度と戸籍制度だ。住民登録制度は、個人の居住地を基準に、個人とその個人と生活を共同にする世帯を各々単位として、住民の居住状況と居住移動実態を登録し公証する居住者登録制度だ。他方、戸籍制度は、個人の血縁的身分関係を戸籍簿と呼ばれる公簿に登録し公証する制度として、一定の親族団体の構成員に対して、その構成員各自の出生から死亡までの身分上の変動を時系列によって把握可能とする身分登録制度だ。およそ現代国家は、国家の構成要素である国民の身分関係を確定するための身分登録制度を持っている。国家の存立と運営に関する基本要素である国民を、その出生、死亡、婚姻、離婚の事由によって登録し、これに基づいて国民としての権利の行使や義務の履行を可能にすることが必要なためだ。しかし、あらゆる現代国家が、居住地という地縁的な特徴を媒介とした登録制度を持っているものではない。特に居住地を媒介にした住民管理を基本的な目的としながらも、実質的には統一的な個人識別番号制度(universal identification number)を通して国民登録制度に活用している国は、韓国が唯一であるといえる。なぜなら、韓国の住民登録制度は、すべての国民に一連の個人識別性を持つ住民登録番号を付与し、身分登録制度である戸籍制度と連係させるだけではなく、各種公的活動や私的活動から身分証明の手段にいたるまで広範囲に活用されているからである。

 この論文は、このような韓国独特の住民登録制度の概要とその問題点を検討することを目的とする。

 

 2. 住民登録制度の沿革と機能

 

 イ.住民登録制度の起源としての寄留制度

 

 韓国の住民登録制度の原型は、日帝植民統治時代の末期に導入された寄留制度に見出すことができる。日帝は、植民地朝鮮の安定的統治のために、1942年9月26日政令第32号で、朝鮮寄留令を制定公布し、その年の10月15日から施行した。本籍地以外の場所で一定期間住所または居所を定めた朝鮮人だけでなく、一定期間以上朝鮮に居住する外国人にも寄留簿に登載するようにし、これに違反した者には過料を課したのであった。この寄留令の施行は、既存の戸籍令による身分登録制度に加えて、さらに居住者登録制度が朝鮮に導入されたことを意味する。

 

 ロ.住民登録法の制定と改正にともなう住民登録制度の変遷

 

 (1) 1962年住民登録法の制定

 

 日帝時代の寄留令は、1945年光復後にも有効な法規として継承されたが、1962年1月15日法律第967号の寄留法に代えられた。しかし、この法律は施行されず、法制定の数ヶ月後である1962年5月10日に制定公布された法律第1067号の住民登録法に代替された。現行住民登録制度の実質的な母体となったこの1962年住民登録法は、形式的には住民管理に目的をおくが、実質的には統一的な国家居住民登録体制という点にその特色がある。朝鮮寄留令以来の寄留制度と住民登録法による住民登録制度は、登録対象と内容面で主要な差が見られる。寄留制度は、本籍地以外の場所に居住する者を対象としたし、住所以外の寄留地を認めていたので、実際の住所地と寄留地が異なることがありえたため、正確な住民の動態把握には十分でなかった。他方、1962年以後の住民登録制度は、本籍地以外の場所に居住するか否かを問わず住民登録を義務づけただけでなく、住所地または居所地のいずれか一箇所にだけ登録することによって、住民の動態把握を実質化したのであった。

 

 (2) 1968年住民登録法(第1次改正住民登録法)

 

 1968年5月29日法律第2016号で公布された住民登録法改正法律は、現行制度のように住民登録制度を住民登録番号を中心にした国民居住者登録制度に変化させた。これによって全国民を一連番号化する住民登録番号制度が体系化され、18歳以上の住民登録者に対して住民登録証を発給するようにした。また、住民登録申告対象に既存の姓名、性別、生年月日、住所、本籍の外に兵役事項と特殊技術事項を追加した。

 

 (3) 1970年住民登録法(第2次改正住民登録法)

 

 1970年1月1日法律第2150号で改正された住民登録法は、身分証明制度での住民登録制度の活用を強化した。つまり、公務員が職務上の必要によって申請人の人的事項を確認する手段に住民登録証の使用を可能とする一方、司法警察官吏が身元及び居住関係を確認するために18歳以上の者に住民登録証の提示を要求できるようにした。特に改正理由が、スパイ及び不純分子の索出のために住民登録証による身分確認機能を強化する必要性に言及することによって、住民登録制度が単純な住民管理でなく住民監視制度の一環であることが明確にされたことが特記するに値する。さらに法文には、明文規定はなかったが、その施行過程で10指の指紋採取が実行され、指紋制度が住民登録制と結合する最初の契機になったのであった。

 

 (4) 1975年住民登録法(第3次改正住民登録法)

 

 1975年7月25日法律第2777号で改正された住民登録法は、住民登録証発給年齢を当時の民防衛基本法による民防衛義務者の最低年齢である17歳に引き下げ、住民登録制度違反にともなう過料と罰則規程を強化した。安保態勢の強化のために、住民登録証発給年齢を下方修正したことが、その基本的改正事由だった。

 

 (5) 1977年住民登録法(第4次改正住民登録法)

 

 1977年12月31日法律第3041号で改正された住民登録法は、住民登録制度の公簿である既存の世帯別住民登録標以外に、個人別住民登録標を導入して住民登録番号順に整理することによって、国民個人の活動に対する管理を強化した。特に、住民登録発給申請対象者が正当な理由なく1年の猶予期間内に発給申請をしない場合に刑罰を賦課できる規定を新設して、住民登録証の身分確認機能を強化したのであった。

 

 (6) 1980年住民登録法(第5次改正住民登録法)

 

 1980年12月31日法律第3330号で改正された住民登録法は、住民登録証の所持を義務化し、国家機関などが国家業務等の遂行のために住民登録証を住民の身分確認用に使用できるようにする根拠規定を用意した。

 

 (7) 1988年住民登録法(第6次改正住民登録法)

 

 1988年12月31日法律第4041号で改正された住民登録法は、1987年6月の民主抗争で新しい憲法が誕生して韓国社会全般に民主化の気運が広がることに合せて、住民登録制度と住民登録証制度を部分的に合理化したのであった。住民登録証にともなう身分や居住地確認が不可能な者を軽犯罪処罰法によって処罰できるようにした条項を削除し、指紋採取不応罪の対象を縮小した。

 

 (8) 1991年住民登録法(第7次改正住民登録法)

 

 1991年1月14日法律第4314号で改正された住民登録法は、国民の利益のための住民登録電算化に対応して、手作業で処理されたいた住民登録事務を電算処理できるように法的根拠を用意し、住民管理体制としての本来の目的を強化するために、住民登録事務の管掌機関を住民の居住地を管轄する基礎地方自治団体に調整した。また、住民登録票の閲覧または謄・抄本の交付申請を、原則的に本人・世帯員またはその委任を受けた者にだけ制限した。そして、電算処理に関与した者の守秘義務を強化した。

 

 (9) 1993年住民登録法(第8次改正住民登録法)

 

 1993年12月27日法律第4608号で部分改正された住民登録法は、居住地移動にともなう住民の便宜を図るため、転出申告義務制度の廃止と、住民登録証発給年齢に達した者の住民登録証発給申請懈怠に対する処罰猶予期間を60日から7月以内に延長して、住民登録制度を合理化した。

 

 (10) 1997年住民登録法(第9次改正住民登録法)

 

 1997年12月17日法律第5459号で改正された住民登録法は、社会的論議の沸騰を呼び起こした電子住民カード導入を骨子とする。元来立法部へ提出された住民登録法は、既存の住民登録証に印鑑証明、運転免許証、医療保険証、国民年金証書などさまざまな機能を統合した電子住民カードを導入することとなっていたが、その乱用を憂慮する世論の抵抗に合い、実際に国会を通過した1997年住民登録法は、電子住民カードを導入するものの、印鑑証明の機能だけを当事者の申請によって電子住民カードに統合できることとしていた。また、電子住民カード発給センターの設置、住民登録簿の電算化と電子住民カードの発給にともなう副作用を最小化するための制度的装置に対する規定をおいた。しかし、この1997年住民登録法にともなう電子住民カードの導入は、おりしも韓国の金融危機と政権交替という複合的状況の変化によって施行出来なかったのであった。

 

 (11) 1999年住民登録法(第10次改正住民登録法)

 

 1999年5月24日法律第5987号で改正された住民登録法は、住民登録証を電子住民カードに更新するための電子住民カード作業が国民のプライバシー権を侵害する恐れがあり、莫大な費用を必要とするので、その事業を保留するものであるが、電子住民カード作業のために投資された設備を活用することによって、更新時期が古くなって身分証明機能が弱くなった既存の住民登録証を、偽・変造が難しい素材の住民登録証に一斉更新することを骨子とする。また、更新する住民登録証に収録する項目を姓名・写真・住民登録番号・住所・指紋・発行日・住民登録機関に限定し、国民のプライバシー権を侵害する可能性があるという指摘を受けてきた従来からの戸主・兵役事項は削除したのであった。

 

 (12) 1999年改正住民登録法以後

 

 1999年改正住民登録法は、同年9月7日法律第6024号により一部改正される等、数回修正されたが、その内容は住民登録制度に関することでなく、関連法の改正にともなう調整等に関するものなので、これ以後の改正に対する説明は省略し、以下項を変えて現行住民登録制度の概要を説明する。

 

 3.現行住民登録制度の概要

 

 現在、韓国で施行されている住民登録制度の概要を、住民登録法(法律第6385号で2001年1月26日に一部改正になったもの)とその施行令及び施行規則を中心に整理すれば次の通りだ。

 

 イ.住民登録制度の目的

 

 住民登録法第1条は、住民登録制度の目的として、特別市・広域市を除外した市・郡または自治区の住民を登録することによって、住民の居住関係等人口の動態を常時明確に把握し、住民生活の便益を増進させて、行政事務の適正な処理を図ることを目的とすると宣言している。

 

 ロ.住民登録事務の管掌と監督機関

 

 住民登録に関する事務は、該当自治団体の機関の長が管掌して、機関の長は当該地方自治体の条例が定めるところによって、下位団体の長にその事務を委任できる(法第2条)。そして、住民登録に関する事務は、行政自治部長官の指揮監督を受ける(法第3条)。

 ハ.住民登録の対象

 

 住民登録法第6条は、外国人及び住民登録法施行令に定めるところの海外永住を希望する海外移住者を除いて、大韓民国の国民として30日以上居住する目的で特定管轄区域内に住所または居所(すなわち、居住地)を持った者を住民登録の対象と定める。

 

 ニ.住民登録標の作成

 

 住民登録は、住民登録法第8条により申告義務を負う当事者の申告によって住民登録事項を記載する、個人別及び世帯別住民登録票の作成・備置と、世帯別住民登録票索引簿を備置・記録することとしている。そして、住民登録標の作成時に所轄機関の長は、対象住民に対して個人別に固有な登録番号である住民登録番号を付与する(法第7条)。住民登録番号は、生年月日・性別・地域などを表す13桁の数字で作成する(法施行規則第2条)。そして、住民登録番号を付与した機関の長は、当該住民の本籍地の機関の長にその事実を通報し、その結果戸籍簿に住民登録番号が登載される(法施行規則第5条)。1997年12月17日の法改正により、住民登録票及び住民登録票索引簿は電算化された(法第7条の2)。また、原則的に個人別住民登録票は、住民登録番号順に、世帯別住民登録票は居住地の地番順に各々整理される。

 

 ホ.住民登録申告事項

 

 該当住民は、住民登録時に次の事項を申告しなければならない。@姓名、A性別、B生年月日、C世帯主との関係、D合宿舎にいる者はその管理責任者、E本籍、F住所、G本籍がない者または本籍が明らかでない者はその事由、H大韓民国の国籍を持たない者はその国籍名または国籍の有無、I居住地を移動する場合には転入前の住所または転入地とその年月日、J大統領令に定める特殊技術に関する事項(法第10条)。住民は、最初の登録以後には居住地の移動(法第14条)、国外移住(法第17条)などの場合に一定期間内に申告しなければならない。しかし、この住民登録法上のこのような基本事項は、その施行令の書式にともなう住民登録標の記載事項により、多様な個人の人的事項に対する情報に拡大されている。その概要は、婚姻の有無、血液型、本籍変更事由、戸主との関係、個人別住所移動状況、人材動員状況(動員区分、動員対象種別、訓練事項、戦時人材動員関連令状発付事例)、資格免許事項と職業訓練状況、学歴、職業、同居人状況などを記載するようにしている。

 

 ヘ.住民登録に関する事実調査と職権措置

 

 当該地方自治体の長は、申告義務者が住民登録法に規定された期間内に申告事項を申告しない時および不実の申告をしたり、申告された内容が事実と相違すると認めるだけの相当な理由がある時には、その事実を調査することができる。この時、事実調査等を通して申告義務者が申告すべき事項を申告しなかったり、申告された内容が事実と相違することを確認した時には、一定の期間を定めて申告義務者に事実通り申告することを催告または公告すべきであり、この時万一申告義務者が定められた期間内に申告を行わなかった場合には、当該機関の長は職権で住民登録を行うか、あるいは登録事項を訂正または抹消することができる(以上、法第17条の2)。他方、このような機関の長の職権措置に対して異議がある当事者は、法が定める期間内に書面で当該機関の長に対して異議を申し立てることができる。異議申立てに対して機関の長と異議申立人の間に争いがある場合、行政審判や行政訴訟を通して最終的に解決がなされる(以上、法第17条の3)。

 

 ト.住民登録証の発給

 

 機関の長は、管轄区域内で住民登録された者の内17歳以上の者に対して横8.6センチメートル、縦5.4センチメートルを規格とする住民登録証を発給する。住民登録証には、表面に姓名・写真・住民登録番号・住所・発行日・住民登録機関を収録し、裏面に指紋及び住所変動事項を収録する。血液型に関しては、住民の申請がある場合、大統領令が定めるところによって追加収録することができる(法第17条の8、同法施行令第34条)。住民登録証の発給は、特別な例外事項を除き、当事者の責による再発給の場合を除いては手数料を徴収できず、住民登録証の発給を理由に租税その他いかなる名目の公課金も徴収してはならない(法第17条の8)。従来、住民登録証の発給は管轄機関でなされていたが、1999年5月24日の法改正によって、行政自治部長官の管掌の下に住民登録証発給センターが設置されて、このセンターが管轄機関長の要請によって住民登録証の発給を代行する(法第17条の14、同法施行令第42条)。

 

 チ.住民登録証の用途

 

 (1) 身分確認

 

 国家機関・地方自治団体・公共団体・社会団体・企業体等でその業務を遂行するにあたって、民願書類その他書類を受理する時、特定人に資格を認める証書を発給する時、その他身分を確認するために必要な場合に、17歳以上の者に対して、姓名・写真・住民登録番号または住所の確認を必要とする時には、原則的に証憑書類を貼付せずに住民登録証によってこれを確認することになっている(法第17条の9)。

 

 (2) 身元証明

 

 司法警察官吏が犯人の逮捕等その職務を遂行するにあたって、17歳以上である住民の身元または居住関係を確認する必要がある場合には、住民登録証の提示を要求することができ、この場合、司法警察官吏は、住民登録証を提示しない者の身元を証明する証票やその他の方法によってその身元や居住関係が確認されない者のうちで、犯罪の嫌疑があると認定される相当な理由がある者に対しては、近隣関係官署でその身元や居住関係を明らかにすることを要求できる(法第17条の10)。

 

 リ.住民登録標の公開と電算処理された住民登録情報の利用の管理

 

 住民は、行政自治部令が定める手数料を支払って当該機関の長に住民登録標の閲覧または謄・抄本の交付を申請することができる(法第18条)。また、現行住民登録制度の下で住民登録標などが電算化されることによって電算処理された住民登録情報の利用と管理に対する規定が作られた。電算処理された住民登録票ファイル等、住民登録電算情報資料を利用または活用しようとする者は、承認を得た同じ内容の電算資料の利用または活用を反復的に申請する場合を除いては、関係中央行政機関の長の審査を経て行政自治部長官の承認を得なければならない(法第18条の2第1項及び同法施行令第45条第8項)。また、住民登録電算情報資料を利用・活用する者は、その本来の目的外の用途にこれを利用・活用してはならない(法第18条の2第2項)。他方、住民登録票及び住民登録票ファイル保有機関の長は、これを管理して滅失・紛失・盗難・流出または破壊されないように必要な安全措置を講ずるべきであり、住民登録票ファイルの管理者は、この法の規定による保有または利用目的以外の目的のために住民登録票ファイルを利用した電算処理を行ってははならない。進んで住民登録業務に従事した者またはそれ以外の者として職務上住民登録事項を知るようになった者は、他人にこれを漏洩してはならない(以上、法第18条の3)。

 

 ヌ.罰則と過怠料

 

 住民登録法第21条は、住民登録または住民登録証に関して虚偽の事実を申告または申請する者や、虚偽の住民登録番号を生成したり、これを財産上の利益のために使用する者、他人の住民登録証を不正使用したり、他人の住民登録番号を財産上の利益のために不正使用した者、電算処理された住民登録情報を漏洩したり不正乱用した者等に対し、3年以下の懲役または1千万ウォン以下の罰金に処するように規定している。他方、法第21条の4は、正当な事由なく住民登録事項に対する機関長の事実調査を拒否または忌避した者には50万ウォン以下の過怠料を、正当な事由なしに機関長の事実調査等による住民登録事項申告などの催告を受けた者または公告された者のうちで、期間内に申告または申請をしない者には、10万ウォン以下の過怠料を、正当な事由なしに住民登録申告または申請を期間内にしない者は、5万ウォン以下の過怠料を賦課するように規定している。

 

 4.韓国住民登録制度の特徴と問題点

 

 イ.韓国住民登録制度の特徴

 

 韓国住民登録制度は、その制度の導入趣旨の面で見れば居住者登録制度だが、身分確認と身分証明を目的とする住民登録証、全国民一連番号で個人識別力を持った住民登録番号制度と結合して、国民の身分登録制度である戸籍制度を凌駕する国民管理体制の中心として機能するという特色を持つ。すなわち、個人識別番号制度、身分登録制度、国家登録証、居住者登録制度が統合されて、国民の公的活動及び私的活動が連係的に把握されて管理される体制であるということができる。

 

 ロ.韓国住民登録制度の問題点

 

 (1) 個人識別番号を通した統合管理体制の全体主義的濫用の危険性

 

 韓国の現実は、行政機関に提出する各種申込書・申告書などあらゆる書類に住民登録番号を必ず記載するようになっており、あらゆる証明書に住民登録番号が明示される。住民登録番号が持つ確実性ゆえに、公共部門だけでなく、学校・企業体など私的部門でも各種書類の提出、身元証明、サービスの申請などに住民登録番号の記載が必須化されている。すなわち、韓国国民は、自身の日常情報を知らない間に公・私の各種データベースに提供しているのだ。世界中のさまざまな国で個人識別番号の導入が推進された事例があるという事実から、全国民個人識別番号制度が一定部分プラスの機能を持つ点は否定することができない。個人識別番号は、国民の各種権利、義務の履行について確実性と効率性を担保する。效率的に選挙人の身元を確認したり、兵役義務の履行を識別したり、納税義務の履行を把握するのに有用だ。個人識別番号を通して、反社会的行為者等に対する統制が易しくなる。このような統制機能を通し、各種社会保障制度の恩恵を不正に受けたり、納税、国防など公的義務を免れる場合を防いだり、是正できるから、国家運営の効率性を向上させることができる。

 しかし、個人識別番号制度がこのようなプラスの機能だけを持っているのでない。統合性と連繋性を持った韓国の住民登録制度は、自由民主国家の国民としての韓国国民の主体性を威嚇する全体主義社会出現の前提条件になる可能性があるという点で警戒される。住民登録番号によって各領域別に分類・整理・利用されている情報が誤用されたり、乱用される場合、現実の個人の主体性は深刻な打撃を受けるようになる。住民登録されていないと不審人物と見なされ、日常生活に各種不利益を受けるようになり、住民登録番号がなければいっそのこと大韓民国国民であることが事実上否定されるのだ。しかも、情報処理の迅速性と大量化を特徴とする情報社会の到来とともに、住民登録番号を媒介とした電算情報が短時間で統合される可能性が高まり、国民の日常生活が全面的に第三者の監視下に置かれる危険性を内包しているのである。

 

 (2) 個人情報保護上の問題点

 

 個人識別番号を通した統合処理にともなう危険性以外にも、現行住民登録制度は、具体化されない抽象的な目的の下に、住民登録申告事項自体が個人情報を広範囲にわたって収集、処理、利用できる根拠を提供している。住民登録申告時に作成される個人別及び世帯別住民登録標には、住民登録法が定めている基本的人的事項を拡大して、婚姻の有無、血液型、本籍変更事由、個人別住所移動事項、人材動員状況(動員区分、動員対象種別、訓練事項)、資格免許事項と職業訓練状況、学歴事項、同居人状況などを記録している。現在の保有情報は、1997年年第9次改正住民登録法とその施行令が施行される以前に、140余に達する身上情報を総括していたことに比較すればかなり縮小されたことは事実だ。過去には、兵役事項、予備軍動員事項、民防衛事項(分類番号、訓練参加日時及び不参加時間)、学齢児童に関する事項(保護者の人的事項、就学区分、就学猶予事由)、報勲事項(報勲番号、対象区分、生活等級)、生活保護対象事項(登録番号、保護種類、健康状態、家族状況、財産事項として居住区分及び不動産所有状況)、 医療保護対象事項(保護種類、診療番号)、印鑑事項など、個人に対する基本的身上情報が網羅されており、個人の私生活侵害に対する批判が多かった。しかし、血液型、職業訓練状況、学歴事項など相変らず敏感な個人情報を含んでおり、私生活侵害の危惧感が完全に払拭できなかったという指摘が多い。特に住民登録情報をほとんどあらゆる行政機関が共有している現実が、その危険性を倍加させているといえる。

 他方、住民登録証の記載事項も、過去に人権侵害の論議沸騰を引き起こした本籍、兵役事項と特記事項などの表記を除外してかなり改善されたが、指紋、写真なども除外されるべきだとの批判が提起されている。

 

 (3) 指紋捺印制度の問題点

 

 現行住民登録及び住民登録証制度によれば、すべての国民は自身のあらゆる指紋を国家に提供することになっている。右手親指指紋は、住民登録証の必要的記載事項であり、住民登録標の作成過程で10指すべての指紋が採取されて保管される。ところが住民の動態把握と行政業務の効率性のための住民登録制度の目的に照らせば、あらゆる指紋を採取して保管することは不適切だという批判が絶えず提起されている。しかも、現実的に住民登録制度の一環で採取された指紋は、住民登録業務と直接的関連がない警察庁により統合され管理されるようになっており、問題を引き起こしている。 なによりもこのような慣行が法律的根拠なしになされている点に問題の深刻さがある。特に、住民登録法は、住民登録情報の提供などに対する手続的規定をおいているが、実務で正しく守られておらず問題だ。現在、全国民を対象に10指すべての指紋を日常的に採取する国は韓国だけであることが知られており、このような議論を後押ししている。指紋は身体の同一性を識別できる主要な情報であるゆえに、社会的に有用に使われる余地が全くないことではない。例えば大事故等の場合に国民すべての指紋記録があるならば、身元確認にとても便利なことだ。また、犯罪人の捜索においても有用に使われる。

 しかし、このような社会的有用性が、国民すべての指紋を採取して保管する合理的で正当な事由となるには不十分である。大事故などでの身元確認の便利は指紋制度の副次的利益であって、指紋制度の本来の目的ではない。また、犯罪人の捜索での有用性も、全国民を犯罪人扱いすることになり、韓国憲法がその第27条第4項で保障している無罪の推定原則に矛盾するからだ。しかも、指紋は、国家共同体の主体として自由で独立な存在である人間が、その尊厳と価値を傷つけられ、屈辱を感じるようになる制度でもある。したがって、韓国では現在指紋押捺制度に対する社会的拒否感が広がっており、特に警察庁による指紋の統合管理は憲法裁判所にその違憲無効を主張する憲法訴願が請求されているのである。

 

 (4) 電子住民カード導入をめぐる論議沸騰

 

 現行住民登録制度の問題点ではないが、1997年の第9次改正住民登録法で推進された電子住民カードの導入は、住民登録制度の未来と関連して検討が必要な部分だ。電子住民カード導入が断念された当時、IMF救済金融を受けなければならなかった経済危機が、その施行を留保するようにした主要な理由であった。したがって、状況の変化によっては電子住民カードの導入が再推進される可能性がある。しかも、1999年第10次改正住民登録法は、電子住民カード導入のために設置された機関(住民登録証発給センター)とその設備をそのまま活用するようにしており、住民登録発給過程がすべて電算処理されるようにしているのだから、電子住民カード導入のための物理的な土台は既に作られているわけだ。

 現在の状態だけでも、住民登録制の誤・乱用の問題点は現実的に今なお残っている。特に新住民登録証に収録された指紋は、電磁指紋の基礎形態を持っており、技術の発達によっては電子住民カードのICチップに代えることができるのでないかとの疑惑が提起されている。しかし、韓国住民登録制度で電子住民カードの導入は容易に再推進出来ないと思われる。なぜなら、全国民個人識別番号としての住民登録番号の広範囲な活用と結びついて、個人情報に対する侵害の危険性を増幅させるために、慎重な検討が必要だということが現在の支配的な世論だからである。

 

 5.結論に代えて

 

 韓国の住民登録制度は、全国民個人識別番号を媒介として国家身分証、身分登録制度などが統合された国民管理制度として機能している。このような強力な国民管理制度の導入は、国民に対する政府のサービス向上のためであるよりは、国家保安と治安維持の目的を達成する国民統制制度として機能してきた側面が強かった。特に、統一性と安全性を長所とする住民登録番号は、公共部門だけではなく私的領域にも広範囲に活用されており、その誤用と乱用を防止するための制度改善を必要としている。すなわち、韓国社会が民主化されることによって、住民登録制度を本来の目的である居住地に基づいた住民管理制度に再確立すべきだという世論が拡大されているのである。

 

 

 

【参考文献】

 

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・朴洪潤「電子住民カード はたして便利で効率的か?」『人権と正義』、第251号、1997年7月、21−37頁

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