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札幌地方裁判所、平成8年(わ)第414号わいせつ図画公然陳列被告事件、平成8年6月27日刑事第三部二係判決(確定)
[主 文]
被告人を懲役10月に処する。
この裁判確定の日から3年間右刑の執行を猶予する。
[理 由]
(罪となるべき事実)
被告人は、NTT電話回線を利用したパソコン通信ネット「モンキータワー」を開設運営しているものであるが、右パソコン通信ネット上でわいせつな図画を公然と陳列しようと企て、平成7年6月ころから平成8年4月22日午前9時20分ころまでの間、札幌市〈住所略〉の自宅において、男女の性器や性交場面等を露骨に撮影したわいせつ画像のデータ合計2256画像分を、順次、右自宅に設置した右パソコン通信ネットのホストコンピュータのハードディスク内に記憶させて、ホストコンピュータの管理機能上、電話回線を経由してホストコンピュータにアクセスしてくる不特定多数の会員が右わいせつ画像データを受信し復元閲覧することが可能な状態を設定し、わいせつ画像データにアクセスしてきた〈氏名略〉ら不特定多数の者に右わいせつ画像データを送信して復元閲覧させ、もって、わいせつな図画を公然と陳列したものである。
(弁護人の主張に対する判断)
1 被告人が判示パソコン通信ネットのホストコンピュータのハードディスクに判示わいせつ画像データを記憶させ、会員がアクセスすればこれを画像として見ることのできる状態にしていた事実は、証拠上明らかであり、被告人・弁護人もこれを認めて争わない。
2 しかし、弁護人は、被告人の判示所為は刑法175条前段のわいせつ図画公然陳列罪を構成しないと主張する。その主張の骨子は、「本件パソコン通信ネットの各会員は、それぞれが時と場所を異にしながら、個別に、各自のパソコンを操作して、電話回線を通じてホストコンピュータから画像を取り出し、それぞれのパソコンに写った画像を密かに見て楽しんでいたものであり、しかも、本件パソコン通信ネットでは、わいせつ画像にアクセスできた会員は僅か28名で、これらはパソコンに関する情報等を交換するなどの同好会的な意識を共有する集団であった。したがって、被告人の本件行為は、わいせつ図画公然陳列罪にいう『公然陳列』の要件を欠くものである。そして、そもそも、わいせつ図画公然陳列罪は、本件のようなコンピュータを使用した画像提供を処罰することを予定しておらず、本件行為にわいせつ図画公然陳列罪を適用することは、罪刑法定主義に反するものである。」というのである。
2 ところで、わいせつ図画公然陳列罪にいう「公然陳列」とは、わいせつ図画を不特定多数の者の閲覧に供し得る状態におくことをいうものと解すべきであるところ、わいせつ画像をいったんコンピュータのハードディスク内に磁気データの形で記録した場合であっても、そのデータをコンピュータ処理すれば画像の形に復元し得るものである以上、そのデータに不特定又は多数の者がアクセスしてデータを受信できる状態にすれば、その行為はわいせつ図画の公然陳列に該当するものと解すべきである。なお、この場合、画像データを受信して画像に復元し閲覧する行為それ自体はアクセスする会員がそれぞれ個別に時と場所を異にして行なうこととなるが、そのような形態の閲覧であっても、それぞれの会員がアクセスする先のホストコンピュータが同一のものであり、他方、ホストコンピュータの側では電話回線が塞がっているとかコンピュータの点検整備等のため電話回線を切断しているとかの事情がない限りそのようなアクセスを受け入れてデータを送信しているものである以上、それは、会員がそれぞれ逐次ホストコンピュータのところまでやってきてわいせつ画像を閲覧しているのと実質的に異なるところはない。そして、陳列というためには、それを閲覧する複数の者が同時にこれを閲覧することは必要ではなく、時を異にして複数の者が順次ないし逐次これを閲覧する場合も陳列に当たるものと解すべきである。したがって、前記のようなデータをホストコンピュータのハードディスク内に記録しアクセスが可能な状態におく行為はこれを陳列というを妨げず、アクセス可能な者が不特定又は多数であれば、そのような行為は公然陳列に該当するとの評価を免れない。
そして、被告人が運営していたパソコン通信ネット「モンキータワー」においては、わいせつ画像データの登録されたフォルダにアクセスできる物は、有料会員に限られていたとはいうものの、その会員になるためには被告人と特別の関係を有することは必要ではなく、被告人の指定する銀行口座に会費を振り込めばそれだけで第一段階の有料会員となる資格を与えられ、さらに有料会員たることを3か月継続すればさらに上位の有料会員となることができる(それも、有料会員となる際に3か月分の会費を前納すれば、直ちに上位の会員となることができることとされていた。)こととされていたのであって、現に、被告人とはそれ以前に何の関係もなく、面識すらない者であっても、商用パソコン通信ネットに掲載された「モンキータワー」や「メディアサーブ」(「モンキータワー」の前身)の広告を見てネットにアクセスし、ネット上に掲載された、わいせつ画像が登録されていることを暗示するネット内容紹介を見て本件ネットに関心を持ち、同様にネット上に掲示された、有料会員となるための手続きの告知に従って会費を納入して有料会員となった者も多くいることが認められるのである。しかも、その会員数は、検挙時において、第一段階の「サードモンキー」が7名、上位の「チーフモンキー」が28名の計35名に達するのである(なお、弁護人の所論の28名というのは「チーフモンキー」のみの数であるところ、より下位の「サードモンキー」であっても、判示わいせつ画像の一部にはアクセスが可能となっていたことが認められる。)。このような内実及び員数の会員集団は不特定かつ多数の者というを妨げないことは明らかであって、これらの者に対してわいせつ画像を閲覧に供した被告人の行為は、わいせつ図画公然陳列罪にいう「公然陳列」に該当すると言うべきである。なお、本件パソコン通信ネットでは、同時にホストコンピュータにアクセスできる者の数は、被告人方の電話回線数の都合上、2名に限られていたものと認められるが、電話回線が塞がっていない限りいつでも誰でもアクセスできるものである以上、この点も前記のとおり被告人の行為を公然陳列と評価することの妨げとなるものではない。また、前記の「チーフモンキー」のうちの8名は被告人の仕事仲間等であり、会費を徴収してはいないことが認められるが、このような会員が一部に存在する事実もまた、被告人の行為を公然陳列と評価することの妨げとなるものではない。
弁護人は、本件のような事実に刑法175条前段を適用することは罪刑法定主義に反するものである旨主張するが、前記のように解することは、刑法175条前段について従前とは異なる新たな解釈を採るものではなく、判例や通説が示してきた解釈とその軌を一にするものであって、もとより、同条の解釈として許容される範囲を超えるものではない(なお、弁護人が引用する二件の高等裁判所判例《広島高等裁判所昭和25年7月24日判決・高等裁判所判決特報12号97頁等》は、特定かつ少数の者に他から隔絶された場所でわいせつ映画を観覧させた事案に関するものであり、観覧者の数や特定性において本件とは事案を異にするものであって、当裁判所の前記解釈運用は右高等裁判所判例に抵触するものではない。)。法の解釈においては、立法当時とは異なる社会情勢が出現した場合に法解釈が変遷することがあり得るが、刑法175条前段を前記のように解釈して被告人ほ本件行為にこれを適用することは、同条に関する従来からの解釈上まさに必然であって、たまたま立法当時には存在しなかった機器類を使用した行為が同条の予定する行為としての定型性を備えていたために同条によって処罰されるに過ぎないのであり、これは法解釈の変遷ですらない。被告人の行為に刑法175条前段を適用することが罪刑法定主義に反するものであるとの主張は理由がない。
3 そこで、判示のとおり被告人の所為はわいせつ図画公然陳列罪を構成するものと認めた。
なお、わいせつ図画公然陳列罪は、わいせつ図画を不特定又は多数の者が閲覧し得る状況におけばそれだけで成立するものであり、その意味においては、被告人がわいせつ画像データをパソコン通信ネットのホストコンピュータのハードディスクに記憶させた時点で既に本件わいせつ図画公然陳列罪は成立していることになるが、単にわいせつ図画を不特定多数の者が閲覧し得る状況においたにとどまらず現実に不特定多数の者に閲覧させた場合にも当然わいせつ図画公然陳列罪は成立し、後者の方が犯情はより悪質ともいうべきところ、本件はまさに後者の事案であるから、判示のとおり、現実に不特定多数の者に閲覧させた事実を「罪となる事実」として摘示した次第である。
(量刑にあたって特に考慮した事情)
1 本件わいせつ図画は、わいせつ性の極めて高いものを数多く含んでいる。
相応の知識と設備を有するものであれば、いつでもどこからでもわいせつ画像にアクセスでき、しかも、そのデータを記憶媒体にそのまま記憶させることもできるのであって、被告人の本件所為は、わいせつ画像を大量に複製頒布するのと同様の高度の違法性を有する。
本件は、伝播性・模倣性が高い犯行と認められる。
被告人は、本件を営利目的で行い、現実に相当額の会費収入を得ている。
2 わいせつ画像は、会員がホストコンピュータにアップロードしたものも数多く含まれ(もとよりそれを他の会員が閲覧できるよう「承認」操作をした被告人に刑責は重いが)、そのすべてを犯人自身が積極的に他から入手して閲覧させたような事案に比べれば、いくぶんかは犯情において軽いものがある。
被告人には、前科前歴がない上、反省の情も認められる。
被告人の父親が監督を約束している。
平成8年6月27日
札幌地方裁判所刑事第三部二係
裁判官 川合昌幸
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