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横浜地方裁判所川崎支部、平成12年(わ)第450号 わいせつ図画販売被告事件、平成12年11月24日判決(確定)


  
判  決

       被告人 A

  
主  文

 被告人を懲役1年6月に処する。
 この裁判確定の日から3年間右刑の執行を猶予する。

  
理  由

(犯罪事実)

 被告人は、わいせつな画像を電子メールシステムにより不特定多数のインターネット利用者に販売しようと企て、平成9年8月初旬ころ、東京都○○○において、インターネット上にホームページを開設してわいせつな画像を電子メールで販売する旨の告知をし、同12年8月11日から同月17日までの間、被告人が開設した銀行口座に別表記載のとおり会員申込金を振込むなどした会員となっていた東京都△△△Bほか5名に対し、男女の性器又は性交場面を露骨に撮影したわいせつな画像の性器部分にマスク取り外し機能を有する画像処理ソフトを使用すれば容易に取り外すことのできるマスクを付した282画像のデータを、電子メールの添附ファイルとして、前記○○○に設置したインターネット対応パソコンから、右Bほか5名が同表記載の各住居に設置したパソコンで再生閲覧可能な各受信用メールサーバーに送信し、もって、わいせつな画像合計282画像を代金合計3万9000円で販売したものである。

(証拠)《省略》

(弁護人の主張に対する判断)

1 弁護人は、罪刑法定主義の原則から、わいせつ図画とは有体物たる「物」でなければならず、被告人は情報を送信しただけで、「物」としてのわいせつ図画を販売したことに当たらないから無罪である旨、及び、刑法は「電磁的記録」を定義してこれを処罰する場合には特に構成要件を設けているのに本件画像情報については構成要件を掲げていないのであるから処罰しない趣旨であり無罪である旨主張するので、本件が刑法175条に該当し、有罪であることを説明しておくこととする。

2 刑法175条は、「わいせつな文書、図画その他の物」の「頒布」「販売」「公然陳列」「販売目的所持」を処罰するものと規定し、「図画」とは「物」すなわち有体物でなければならないと解されてきたことは弁護人の主張するとおりである。ただし、刑法175条の立法趣旨は、わいせつ物が社会に氾濫することによって、人の性に関する良識を麻痺させ、健全な性風俗、性道徳、性秩序が乱れることを防止することにある。立法当時、わいせつ文書等刑法175条の対象は、文書、図画、写真等の有体物上に表現され視認しうる物に限られていたが、その後、音響・映像機器、電子機器の発達に伴ない、カセットテープ、映画フィルム、ビデオテープ、コンパクトディスク等についてもそこに内蔵されるわいせつ情報に着目してわいせつ物と考えられるようになってきた。更に、現在ではインターネットの発達は著しく、本件のようにインターネットを利用したわいせつ画像の伝達も可能になっている。

3 そして、判示被告人の所為は、わいせつ画像を被告人のパソコンから、インターネットを通じて会費を支払った会員のパソコンに送信し、わいせつ画像を閲覧可能にしたものである。自らのパソコンにあるわいせつ画像と同一のわいせつ画像を有料会員のパソコン上にも表出可能にしたものであって、インターネットを通じ、わいせつ画像情報の入ったファイルを送付したものである。ファイルは一定の内容を保ったまま送付されるのであって、固定性を有し、販売概念を曖昧にするものではない。しかも、その画像ファイルは、購入者のパソコンのハードディスク等に保存し、或いはこれをプリントアウトして文書化したり、或いは更に転送したり、CD−Rに焼き付けたりして、他に広めることも可能であって、同法174条の場合とは趣を異にしていて、175条の適用が相当な場面である。また、今日ではインターネットを通じてさまざまなファイルの売買が日常的に行われており、本件を「わいせつな文書、図画その他の物」の範囲を従来の解釈より拡張してわいせつ画像販売として刑法175条に当たるとしても、予想不可能で不意打ちに当たるとは到底思われない。公然陳列についてではあるが、情報に着目して本条を適用した判例もある(岡山地方裁判所平成9・12・15)し、本件と同種の事案についてわいせつ図画販売に当たるとした判例もある(横浜地方裁判所川崎支部平成12・7・6)。本件について刑法175条を適用しても、罪刑法定主義に反するものではない。

4 弁護人が主張する電磁的記録を別途処罰する趣旨を規定した同法161条の2のような規定が無いことから、これを除くと解釈しなければならないわけではない。刑法上、電磁的記録について別途の規定を置いているのは、情報が保護の対象又は侵害の客体となる犯罪類型についてであって、本罪のように情報自体が法益侵害の直接の手段となる犯罪類型について、電磁的記録についての規定がないからといって限定して解釈しなければならないものではない。

5 以上のとおりであって、本件は刑法175条のわいせつ図画販売に当たることが認められる。
 したがって、弁護人の主張は理由がない。

(適用法令)

1 罰条     包括して刑法175条前段
2 刑種の選択  懲役刑を選択
3 刑の執行猶予 同法25条1項

(検察官野原一郎、私選弁護人渡辺邦守各出席)
(求刑−懲役1年6月)

    平成12年11月24日
     横浜地方裁判所川崎支部刑事部

             裁判官 櫻井良一

《別表省略》



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