【コメント】

2000年3月30日午前10時にFLMASKリンク事件判決が言渡されました。結論は有罪(懲役1年執行猶予3年)でした。本件の論点と裁判所の判断、およびそのコメントは以下の通りです。


本件の主たる論点は、次の2点です。



■正犯は犯罪か?

第1に、ここでは、「潜在的わいせつ性の問題」と「刑法175条における『陳列』行為があったのか」が問題となります。

まず、その前提として、本件で「陳列」された「わいせつ物」とはいったい何であるのかが問題となります。この点については、裁判所は従来の有罪判決と同様に、「わいせつ画像データが記憶蔵置されたサーバコンピュータ」が「わいせつ物」であるとしています。この点では、平成9年12月15日の岡山地裁のような、「わいせつデータ」そのものが「わいせつ物」であるといった理論は採用しませんでした。刑法175条がわいせつ物を規制していると考えられますので、大阪地裁の前提については特に問題はありません。

本件では、正犯のアップロードした画像はいわゆるマスク画像でした。ここでは、潜在的わいせつ性が問題となります。つまり、それ自体ではわいせつ性は顕現しておらず、ユーザーの元で一定の操作をすることによってわいせつ性が顕在化するものです。

判例は、ビデオテープのように、それじたいではわいせつではないが、ビデオデッキに入れて、再生のボタンを押せばわいせつな映像が現れるものも「わいせつ物」と認定していますので、FLMASKで処理していても、それが復元できるものならば、わいせつ図画と認定してもかまいません。裁判所もそのように認定しています。ただ、問題は、本判決が、FLMASKをダウンロード可能な本件被告人のホームページとリンクされていたから、潜在的わいせつ性で足りるとしたのかどうかという点です。つまり、マスク画像はそれ自体ではわいせつではないのかどうかという点については、正式の判決文を見ていないので、まだ何ともいえません。

しかし、問題は次の点にあります。

潜在的わいせつ性を有する物については、そのままの状態では、陳列罪は成立しえません。判例でかつて問題となったのは、未現像のわいせつフィルムです。判例は、未現像のわいせつフィルムについて、わいせつ物頒布・販売罪は成立するが、陳列罪は成立しえない(名古屋高裁昭和41年3月10日判決、高刑集19巻2号106頁)としています。これはまったくその通りです。未現像のわいせつフィルムをそのままの状態で見せても、何ら性風俗は侵害されません。そうすると、マスク処理されたものは未現像のわいせつフィルムと同じことですから、陳列罪は不成立となるはずです。本判決が、本件正犯のマスク画像について公然陳列罪を肯定したのは、本件被告人の(FLMASKが入手可能な)ホームページとリンクされていたから、わいせつ性が認められるという趣旨なのかどうかと点は、今後、判決文を入手できればさらに検討したいと思います。


第2に、上の論点と関連しますが、サーバコンピュータがわいせつ物なのに、なぜ「陳列」となるのか、です。本判決も指摘しているように、インターネットで画像が見えるのは、サーバからユーザーのパソコンに画像データが送信されるからです。つまり、画像データがコピーされるわけです。裁判所は、サーバのデータとユーザーのパソコンに送信されたデータはまったく同一であり、しかも、その送信のプロセスが「自動化」されているので「陳列」だとしました。確かに、そのプロセスは「自動化」されています。しかし、自動化されて送信されているものは、あくまでも「マスク画像」なのです。それを見ようとすれば、ユーザーがみずから一定の操作をしなければなりません。その最終的な過程は決して「自動化」されているものではないのです。ここに、本判決の無理な点があります。つまり、マスク画像におけるわいせつ性の見え方は、わいせつ未現像フィルムが購入者の手元で現像されて見える、その見え方と同じなのです。本来ならば、これは「頒布・販売」という類型なのですが、これがなぜ「陳列」となるのかは、「自動化」ということではまったく説得力がありません。はっきり言うと、これは刑法で禁止されている類推解釈ではないのか、ということなのです。


ある意味では、以上の点が本件の中心論点といえなくもありません。というのは、正犯が犯罪であってはじめて、共犯も犯罪となるのであり、正犯が無罪ならば共犯も当然不成立となるからです。

裁判でもこの点は充分に争われています。私も、証人として出廷しましたが、この点についての疑問を中心に証言しました。検察官の論告は、この点について反論していますが、きわめて不十分な論理です。裁判所がこの点についてどのような論理を展開するか見ものです。


■FLMASKがダウンロード可能なホームページから、FLMASKで画像処理したわいせつ画像のあるホームページへリンクを張ることは幇助行為か?

たとえば、マジックインキで修正したわいせつ写真が売ってあり、別の店ではそのマジックインキを除去する薬品が売ってあったとします。その店の店主がお互い共謀して、写真を買った人に、「あそこの店に行けば、これを除去できる薬品が入手できる」、「この薬品で、あそこの店に売っているわいせつ写真のインキを除去できる」と言ったとします。この場合は、問題なく、刑法175条の共同正犯です。

本件では、当初、共同正犯とすべきだとの議論も検察官の間であったようですが、最終的には幇助で起訴されました。共同正犯か幇助犯かの区別は、学説でもいろいろと議論がありますが、その犯罪について本質的な行為を行っていたかどうか、という点が基準です。本件の場合は、(正犯が犯罪ならば)私は、本質的な行為といえるのではないかと思っています。なぜ、検察官が幇助で起訴したのかは明らかではありませんが、おそらくFLMASKの製作自体は合法だとしていることから、リンク行為のみをとらえて援助行為と判断したのではないかと思います。

ところで、幇助とは、正犯の犯行を容易にすること(援助すること)であり、その方法はどのようなものでもかまいません。物理的に援助する(ピストルを貸与する)場合でも、精神的に援助する(激励する)場合でもかまいません。

本件では幇助とされたわけですが、リンクは物理的に正犯を援助しているわけではないので、精神的幇助が問題になります。

物理的幇助の場合は、犯罪との因果関係が明らかですから、問題は少ないのですが、精神的幇助の場合は、因果関係が不明確になることから、正犯の犯罪の危険性を「よりいっそう高めた」という関係が必要です。

ところがリンクの場合は、リンクしていなくとも、サーチ・エンジンで検索可能なわけですから、正犯の犯罪を「よりいっそう高めた」とはいえないのではないか、と思います。私も、公判でそのように主張しましたし、弁護側も最終弁論でこの点を強調しています。


■本判決の影響

これは、想像以上に大きなものがあると思います。一つは、サーチ・エンジン。もう一つは、個人が行うリンクです。

本件の場合は、被告人と正犯とのメールのやり取りが問題となっており、本判決はそれだけで共謀があったとまでは認定していません。しかし、リンクを張る相手のホームページがどのような内容であるかを知ってリンクを張ることが犯罪性を帯びるという結論を導き出しています。本件は、正犯がわいせつ図画公然陳列罪ですから、本件被告人が、正犯のホームページにわいせつ画像があるということを知ってリンクを張ったことによって、より多くの人がわいせつ画像を見る機会を作ったと述べています。

そうしますと、サーチ・エンジンの場合、「ポルノ」や「アダルト」というキーワードを入力することで、そのようなホームページがヒットし、容易にアクセスできるようになるわけですから、当然問題となります。今後は、サーチ・エンジンのプログラムを設計する者や、それを運営する者は、そのような言葉でわいせつなホームページが検索できなくなるようにしなければならないでしょう。

また、個人が他のページにリンクを張る場合も、相手のページに有害な情報がないかを調査しなければなりません。

このような意味において、本判決の影響は意外と大きなものがあるのではないかと思っています。

とりあえずのコメントとしては以上です。