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平成9年3月25日宣告 裁判所書記官〈氏名略〉
神戸地方裁判所、平成8年(わ)第914号
判 決
〈本籍・住居・職業・氏名・生年月日、省略〉
右の者に対するわいせつ図画販売目的所持被告事件について、当裁判所は、検察官上野正晴及び弁護人(私選)平井健志各出席の上審理し、次のとおり判決する。
主 文
被告人を懲役1年に処する。
この裁判確定の日から3年間右刑の執行を猶予する。
押収してあるハードディスク1台(平成9年押第13号の7)、マグネットオプティカルディスク2枚(同号の1及び2)及びフロッピーディスク42枚(同号の3ないし6及び8)を没収する。
理 由
(罪となるべき事実)
被告人は、販売の目的をもって、平成8年11月5日ころ、兵庫県〈住所略〉の自宅において、男女性交の場面などを露骨に撮影した画像を保存したわいせつ図画であるハードディスク1台(平成9年押第13号の7)、マグネットオプティカルディスク2枚(同号の1及び2)及びフロッピーディスク42枚(同号の3ないし6及び8)を所持したものである。
(証拠の標目)
〈省略〉
(法令の適用)
被告人の判示行為は刑法175条後段に該当するところ、所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で被告人を懲役1年に処し、情状により同法25条1項を適用してこの裁判確定の日から3年間右刑の執行を猶予し、押収してあるわいせつマグネットオプティカルディスク2枚(平成9年押第13号の1及び2)、わいせつフロッピーディスク42枚(同号の3ないし6及び8)及びハードディスク1台(同号の7)は判示わいせつ図画販売目的所持の犯罪行為を組成した物で被告人以外の者に属しないから、同法19条1項1号、2項本文を適用してこれらを没収することとする。
(弁護人の主張に対する判断)
弁護人は後記各主張に基づいて被告人は無罪であると弁論するけれども、当裁判所は弁護人の右主張はいずれも採用することができないと判断するので、その無罪弁論は失当である。以下、その理由を説明する。なお、説明の便宜上、ハードディスクをHDと、マグネットオプティカルディスクをMOと、フロッピーディスクをFDとそれぞれいう。
1 HD、MO、FDの「図画」性について
弁護人は、本件のHD、MO、FDは情報記憶媒体装置たる物体でそれ自体何ら性的刺激につながる意味を有するものではなく、他方、これら保存されているわいせつ画像情報は電磁的に記録されている無体物であるから、そのいずれについても図画にはあたらないとし、さらに、わいせつ画像が保存されている右媒体装置であっても、「図画」とは本来の語義からすれば、その物自体から可視的に象形されたものを認識できる場合を指すと解すべきであるから、刑法の構成要件厳格解釈の要請に照らし、刑法175条所定の「図画」の射程範囲は直接視覚的に認識できる写真や映画フィルム等までと考えられ、本件のHD、MO、FDの如きわいせつ画像が電磁的に記録されているものであって、コンピューターという別段の装置を用いることによりはじめてそのわいせつ画像が認識できるようなものについては、「図画」に当たらない旨主張する。
しかしながら、「図画」とは象形的方法で表示されたもの一般を意味するが、刑法175条の罪の立法趣旨が、善良の性的道義観念を保護し、わいせつなものが広く社会一般に流布されることによる性道徳の混乱を防止することにあることにかんがみると、右法条所定の「図画」とは、物自体では直ちにわいせつ性を判断することができず、その物に何らかの技術的操作を加えることによって、これに潜在しているわいせつ性が象形的方法で表示されて明らかになるものであっても、その物を入手した者にとって、右技術的操作が簡単で容易にそのわいせつ性を顕在化することができるのであれば、その物はわいせつ図画に当たると解するのが相当である。
これを、本件についてみるに、本件のHD、MO、FDは、わいせつ画像情報は電磁的に記録された情報記憶媒体装置であり(その情報と装置をそれぞれ別個にみる限りいずれもわいせつ図画に当たらないのは当然である。)、その情報と装置の両者が一体となっているものであるところ、このHD、MO、FDに記録された画像情報を、パソコン等を操作してその画面上にディスプレイする、すなわち、このHD、MO、FDに潜在するわいせつ性を象形的方法で表示して顕在化することができるものであり、なお、こうしたことはパソコン等についての基本的知識があれば簡単で容易に行うことができるのはいうまでもないから、本件のHD、MO、FDは「図画」に当たるというべきである。この「図画」性を否定する弁護人の前記主張は採用することができない。
2 HD、MO、FDの販売目的について
弁護人は、被告人には、本件の所持に係るHD、MO、FDのうち、HDからわいせつ画像情報を他のFD等にコピーしてこれを販売する目的はあったが、このHD自体を販売する目的はなかったし、いわんや、MOやFDについては、HDが故障などした際にそれぞれ同一内容の情報を再起するためのいわゆるバックアップ用にすぎないところ、原本である右のHD、MO、FDの所持については、このHDからわいせつ画像を販売目的をもってコピーした他のFD等の所持に比して、刑法175条後段の罪に関する保護法益の侵害から遠ざかるものであるから、被告人の右所持には同条後段の「販売の目的」があったとはいえない旨主張する。
しかしながら、近時パソコン等のOA機器の進歩・普及によって、原本の内容を正確、迅速かつ大量に複写することが極めて容易になり、こうした状況の下では、本件のHD、MO、FDの如きわいせつ図画を所持し、その複写物を販売する目的を有する者は、このHD、MO、FD自体を販売する意思がなくても、これらを原本としパソコン等を利用して右わいせつ図画と同一内容の複写物を正確、迅速かつ大量に生産して販売することが可能である。そうすると、原本たる右のHD、MO、FDを所持する者にその複写物を販売する目的があるときは、同条前段の行為に容易に発展するという意味でその保護法益侵害の実質的危険性が明白に現在していて、その複写物を販売する行為と同程度の刑罰評価を受けるべき実質を有しているというべきである。なお、刑法175条後段は、単に「販売の目的でこれらの物(当裁判所注・同条前段のわいせつな文書、図画その他の物を指す。以下「わいせつ図画等」という。)を所持した」者と規定しているだけであるから、これらの文理解釈として、わいせつ図画等を販売する目的で当該わいせつ図画等そのものを所持した場合のみならず、わいせつ図画等の複写物を販売する目的でその原本である当該わいせつ図画等を所持した場合も含むと解しても、不当な拡大解釈にはならないと考えられる(以上は、ダビングしたビデオテープのみを販売する目的でわいせつビデオのマスターテープを所持した行為につきわいせつ図画販売目的所持罪の成立を認めた東京地方裁判所平成4年5月12日判決−判例タイムズ800号272頁〜274頁に登載−の考えに準ずるものである。)。そうすると、本件のHD、MO、FDを所持していた被告人にその複写物の販売目的があったことを証拠上優に肯認することができる本件においては、被告人の右所持に刑法175条後段の「販売の目的」があったものと認めるのが相当である。被告人にこの「販売の目的」があったことを否定する弁護人の前記主張も採用することができない。
3 本件犯行の実質的違法性について
弁護人は、コンピューター通信を手段としてわいせつ画像を収集するのは従来の情報手段に比し極めて容易であって、わいせつ図画の複写物であるFDを購入しようとする者はこれを購入しなくても自分でインターネットを利用して同様のわいせつ画像をたやすく入手することができるのであり、これの防ぎようがない現状においては、被告人の本件犯行は、社会の善良な性風俗に与える影響が軽微であるから、実質的違法性を欠く旨主張する。
しかしながら、なるほど、近時コンピューター通信を手段としてわいせつ図画を収集するのは容易であり、パソコン等を所持してこれを操作する者はインターネットを利用し、本件HD、MO、FDの複写物と同様のわいせつ図画の複写物を入手することができるとしても、これにはアクセスする手間や費用が掛かるものであるし、パソコン等を所持しない者やこれを所持してもインターネットを利用しない者も少なくないことを考えると、被告人の本件犯行は、わいせつ図画である本件HD、MO、FDをその複写物につき販売する目的で所持したものである以上、右の者らに対し容易にわいせつ図画の複写物を入手させる実質的危険性のあったことは否定すべくもないから、その実質的違法性を欠くものとは到底いえない。したがって、被告人の本件犯行は実質的違法性がない旨の弁護人の前記主張も採用することはできない。
(量刑の理由)
本件犯行の罪質、経緯・動機、態様等、殊に、その動機は、被告人が、自己の趣味であるインターネット通信を楽しむための費用がかさむことから、前記HD等に収録したわいせつ画像情報を他のFDに複写しこれを販売してその費用等に充てる金を儲けることにあったもので、特に酌むべき事情が認められないこと、そして、被告人が、右複写物を販売のために、客からの購入の申込みにすぐに応じられるように、複写用のFDとか郵送用封筒や切手等を買い揃え、代金振込用の預金口座を開くなど準備万端を整えていたほか、被告人が現に前記HDを利用して行った過去約1年2か月間における右複写物の販売の相手が延べ400人余、同販売利益が約350万円にも上っている状況に照らしても、本件犯行が社会の善良な性風俗を害する危険性は大きいものがあったといえること、以上を併せ考えると、本件の犯情は芳しくなく、被告人の刑事責任を軽くみることはできない。
しかしながら、他方、被告人が本件犯行により周囲の者を含めて多くの人に迷惑を掛けたとして、反省の態度を示し、今後は本件のようなことはしない旨誓い、被告人の妻がその監督をする旨約していること、被告人には全く前科・前歴がなく、本件の保釈後も従前の会社に勤務してまじめに働いていること、その他、弁護人が指摘する被告人に有利な諸事情をも考慮して、被告人に対しては今回に限り刑の執行を猶予して社会内で更生する機会を与えるのが相当であると考える(求刑1年)。
よって、主文のとおり判決する。
平成9年4月16日
神戸地方裁判所刑事第12係甲
裁判官 谷 口 彰
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