【コメント】
  1.  本件判決が、「サーバーコンピュータ」を「わいせつ図画(物)」と認定した点は、従来の裁判例と変わらない。インターネット利用者でダウンロードして、マスクを容易に除去できるから、潜在的わいせつ性で足りるとしている。

  2.  本件も、「わいせつ図画の公然陳列」ではなく、刑法に規定が存在しない「わいせつ画像データの『送信(頒布)』である」とする弁護人の主張に対しては、送信行為(アップロード)で犯罪が完成しているとする。しかし、この点の理由と前記1の理由との整合性が取れていないと思われる。1では利用者の行為があるから潜在的わいせつ性で足りるとしていながら、「陳列」では利用者の行為は何ら問題とされていないのである。「陳列」の段階で、(わいせつ画像の)「再生閲覧」の可能性があるというのであるならば、それは「頒布・販売」の事例と同じであるから、それで「陳列」を根拠づけることはできない。ちなみに、名古屋高判昭和41年3月10日判時443号58頁は、未現像のわいせつフィルムをもってしては公然陳列罪は成立する場合が考えられないことはいうまでもない、としているのである。
     本件判決はマスク画像のアップロード自体を「陳列」であるとしているのであるが、それは未現像のわいせつフィルムを提示したのと同じことではないのか。

  3.  本件判決は、アメリカのサーバーにアップロードしていた行為について、送信行為と受信行為が国内である以上、国内犯として日本刑法の適用があるとしている。しかし、日本からも見られるという点を強調すれば、アメリカ人がアメリカで開設したホームページにも日本の刑法が適用されるであろう。つまり、インターネット全体に日本の刑法が適用される可能性もあるだろう。
     次のような事例では、なお問題が残る。
    1. 日本在住の者が、英語(もしくは極めてマイナーな言語)で作成したわいせつなホームページを日本国外のサーバーにアップロードした場合(日本からも見える)
    2. 日本在住の者が、英語(もしくは極めてマイナーな言語)で作成したわいせつなホームページを日本国内のサーバーにアップロードした場合
    3. 日本国外在住の者が、英語(もしくは極めてマイナーな言語)で作成したわいせつなホームページを国外から日本国内のサーバーにアップロードした場合

  4.  本件判決は、わいせつ物であるサーバーの所在地は問題でないとしているが、そうなると国内の場合であっても事情は同じであって、国内の場合の捜査について法の規制が緩められる可能性が生じた。
     確かに、たとえばAがBに脅迫状を送った場合、その脅迫状がどこの郵便局を経由して配達されたかは犯罪の成否に全く問題とならない(通過犯罪)。海外経由で届いた場合であっても同じである。したがって、かりに「わいせつ情報送信罪」といったような処罰規定があったとすれば、わいせつ情報が掲載されたサーバーの所在地は問題とならない(ニュースサーバーも射程に取りこまれるだろう)。その場合、「送信行為」が日本国内であれば国内犯として処罰可能であろう。しかし、「陳列罪」では、問題となる「わいせつ物」がどこに置かれていたのかは、犯罪の成否にかかわる最も本質的な点なのである。最高裁も、刑法175条は「わが国における健全な性風俗を維持するため、日本国内において猥せつの文書、図画などが頒布、販売され、又は公然と陳列されることを禁じようとする趣旨に出たものである」とし、海外で販売する目的で国内でわいせつ図画を所持していたケースを無罪としているのである(最高裁昭和52年12月22日判決)。もちろん、この最高裁判決は、インターネットも含めた判断したものではないので、その射程範囲が問題となるであろうが、本件判決は、被告人の(海外への)送信行為で刑法175条が既遂となると解している以上、この点の整合性が問われるべきである。